骨盤臓器脱とはどんな病気?
骨盤臓器脱は骨盤内の臓器(子宮、膀胱、直腸など)が腟の前後の壁とともに下降する病気です。子宮や膀胱、直腸を支える筋肉、靭帯など組織が弱くなったり、神経が損傷して結果的に子宮や膀胱、直腸などが下降します。つまり子宮、膀胱、直腸などの臓器が悪くなったというよりもこれらを支える組織が弱くなって結果的に下降している状態です。正確なデータはありませんが、日本人の女性の約10%以上に発症するとされています。患者さんは個々で悩まれていますが決して珍しい病気ではありません。
骨盤臓器脱の原因は?
加齢と経腟分娩の既往が最も重要なリスクです。また肥満や体質的な(遺伝的な)素因が主な原因です。
骨盤臓器脱の症状は?
何か陰部にはさまった感じ、下がって来る感じや違和感などの下垂感が主症状です。また膀胱瘤(膀胱が下がっていること)があるときは頻尿や排尿困難などの症状、また直腸瘤(直腸が下がっていること)があるときは便秘などの症状があります。
骨盤臓器脱の治療は?
骨盤臓器脱と診断されても下がってくるような感じがなく治療の必要はありません。このような場合でも骨盤臓器脱の程度が酷かったり、排尿困難(特に尿閉)、あるいは水腎症があるときなどは治療の対象になります。
治療法には基本的には薬物療法はありません。エストリオール製剤を短期的に使用すると症状がある程度改善されることがありますが根治的ではありません。また骨盤底筋体操が有効であり個人的には経腟分娩の既往がある女性は特に予防的な目的で日常に行うとよいと思っています。
手術をしない治療法、あるいは最初に行う治療法としてはペッサリーの挿入、固定があります。ペッサリーとはリング状の器具です。これを腟内に挿入、固定して子宮や膀胱が下がって来ないようにします。骨盤臓器脱の程度が軽度から中等度まではかなりの割合で症状が改善されます。しかし長期的に使用する場合、ペッサリーは異物なので腟炎、腟びらん、あるいはこれらに伴う出血などの課題があります。そのためペッサリーの自己脱着が可能な患者さんには看護師の指導のもと行っていただいています。腟炎や腟びらんの発生率を格段に減らすことができます。
これらの保存的治療法がうまくいかないとき、骨盤臓器脱の程度が酷いとき、あるいは患者さんが最初から手術を希望されたときはなどに手術を行います。手術は最も根治的な治療法ですがどんな手術方法でも再発のリスクがあります。新都市病院ではできるだけメッシュなどの人工物を体内に使用しない手術を行っています。まれではありますがメッシュ挿入に伴う術後の有害事象(メッシュびらん、感染、便秘、腰痛、腹痛、アレルギーなど)が発生する可能性があるからです。とくにこのような有害事象が発生した場合、骨盤の奥深く挿入されたメッシュの抜去は非常に困難であり、その後の人生に影響を与えてしますこともあります。そのためメッシュの挿入は最後の手段に温存しておいたほうがよいと考えています。またあまり指摘されないことですが日本人と特に西洋圏の患者さんとは更年期以降のセクシャリティの違いはかなりあると感じています。そのため患者さんの個々の生活習慣や希望についてよく傾聴して術式を検討したいと考えています。