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OpenEvidence®と対話する:生成AI時代における術式の評価

日々の診療や手術の合間に、医療特化型AIであるOpenEvidence®を使う機会が増えている。 一般的な生成AIは文章作成に長けているが、時にハルシネーション(もっともらしい嘘)を交える。それに対し、OpenEvidence®はPubMedなどの査読付き医学論文や国際ガイドラインを直接のソースとし、必ず明確な引用文献(エビデンス)を提示する。医学的に検証可能な事実だけを抽出する専門ツールである。 私はOpenEvidence®を、自分の術式の全体的な評価や他の術式との違い、あるいは欠点などを洗い出すために主に使っている。 OpenEvidence®と向き合う中で痛感するのは、こちらの臨床経験や解剖学的理解、明確な問題意識がなければ、決して本質的な議論には至らないという点である。漠然と問いかければ、AIは「適応や術者の好みの問題」といった一般的な総論を返してくる。しかし、手術で実際に手を動かしたときの感覚や気付きをもとに具体的な論点をぶつけることで、初めて深いディスカッションが成立する。 例えば、近年注目されるvNOTESの評価である。OpenE

vNOTESを現在のところ導入しない理由

最近、婦人科腹腔鏡手術、特に子宮全摘においてお腹にまったく傷をつけない手術、vNOTESが注目されている。学会などでも演題数も多く、病院のホームページをみてもお腹に傷のないvNOTESを導入していますといった記載を見かける。患者さんにとってvNOTESは、傷が残らないというのとても魅力的な選択肢であるし、時代の進歩を感じるとても素晴らしい試みであると思う。  ただし、私は現在のところvNOTESは導入していない。おそらく10年以上前から台湾や欧米の術者による報告によりvNOTESの存在は認識していた。しかし当時、その論文や動画をみると、やはりどうしても自分にとって、vNOTESは導入しずらい手術であると判断していた。  その理由は子宮全摘でもっとも大事な工程のひとつである膀胱と子宮を分離する手技(いわゆる膀胱剥離)が、どうしてもブラインド(盲目的)操作になってしまうことである。これはvNOTESも腟式子宮全摘術(TVH)と全く同じ作業である。  私がまだ研修医だった頃、腟式子宮全摘術を指導の先生と行った際に最初の膀胱剥離の際に膀胱損傷をおこしてし

かつて旅した国からの患者さん

学生の頃、いまから30年以上前に休みのたびにバックパックを担いてふらふらと旅をした国からの患者さんがときどき受診をしてくれる。 思い出してみるとその国々はベトナム、インドネシア、タイ、マレーシア、ミャンマー、台湾など多岐に渡っている。磐田のような地方の小さな街でも意外と色々な国の皆さんが生活していることがわかる。製造業の盛んな街だから比較的多いのかもしれない。 自分が実際に旅したそれぞれの国では、運がよかっただけかもしれないけど個人的にはほとんど嫌な目にあったり危険な目にあったことがなかった。現在のようにインターネット、さらにはスマートフォンなどが普及する前だったから、まだ旅は手探りのような状況が多かった。道に迷って遭難しそうになっていると目的地まで連れて行ってくれたり、いきなり入った食堂で何を頼んでいいか困っていると、となりのテーブルの人が通訳してくれて思いがけない美味しい料理に出会うことができたりした。また宿で発熱してつらそうにしていると、消化のよさそうな食べ物(あれはベトナムでワンタンのスープだった)をもってきてくれたりした。ほかにもそれぞ

子宮全摘後に最後に残るきずは下腹部の小さなきず:3mm鉗子の手術

腹腔鏡手術のきずは一般的に10mmか5mmの大きさであることが多い。ほとんどの腹腔鏡手術をする器具(スコープ、鉗子、電気メスなど)がこの太さであるためである。 いろいろな理由、あるいは制限があって10mmあるいは5mmの器具を使うかは決めているが、できればより小さなきずで手術をすることで、患者さんの痛みを少なくしたり、回復を早く、さらに将来きずが残りにくいといいなと思っている。 もちろん、きずが全くないと最高だけど(実際にきずのない子宮摘出として腟式子宮全摘術やvNOTESなどがある)、自分としてはやはりこれまでの腹腔鏡手術のよさを損なわず、かつ慌てて他の方法に切り替えたりする可能性ができるだけ少ない方法を追求したいと思っている。 その方法として、3mmの鉗子を部分的に使用した腹腔鏡手術、特に腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)を行っている。この場合、5mmのきずおへその中、3mmのきずを左下腹部、下腹部の真ん中に5mmきずの3つのきずでほとんどの手術を行っている。このようにきずを施せば、へその中のきずはへその奥に埋もれるし(ただしへそは肥厚性瘢痕がおこ

子宮筋腫の手術で輸血になる確率はどれくらい?

子宮全摘術や子宮筋腫核出術の手術の説明を患者さんやご家族にするときに、出血が大量になり輸血をしなくてはならないリスクについて説明をしている。子宮や卵巣はかなり血流が多く手術の工程上、絶対に輸血しなくて大丈夫といえる手術は残念ながらほとんどない。 実際に輸血が必要になるのは、急速に多量の出血が続き、しかも止血処置を行ってもなお出血のコントロールが難しい場合と認識している。目安として1000ml前後を超えるような急な出血が続くケースが該当することが多いが、実際に輸血が必要かどうかは出血量の数字だけで決まるわけではなく、出血が止まる見込みがあるか、血圧や脈拍などの全身状態が保たれているか、貧血の進み具合はどうかなど、総合的に判断している。 たとえば大きな子宮筋腫の手術、さらに大きな子宮筋腫に子宮内膜症が合併しているときなどは自分の経験的には出血のリスクがある。また子宮筋腫核出術自体、とくに子宮筋腫が大きい場合、頚部よりに発生している場合も大量出血の原因になり得ると自分の経験からは重要視している。逆に良性卵巣疾患の手術では輸血のリスクはほとんどないし、自

腹腔鏡下卵巣(卵巣腫瘍、子宮内膜症)手術後の仕事復帰 

腹腔鏡下で卵巣腫瘍や子宮内膜症(チョコレートのう腫)の手術をする患者さんは、比較的若い方が多い。仕事や学業で忙しく、そのため「卵巣の手術を行ったあとに、どれくらいで復帰できますか」と尋ねられることも多い。 でも基本的には、卵巣の手術の場合は退院後の活動や食事などに関して、ほとんど制限はない。退院後もしばらくお腹の中の鈍痛や皮膚のきずが痛むことはあるが、これも退院後10日ほどかけて、少しずつ軽くなっていくことが多い。動いてみて痛みが強くなったり、疲れを感じたりしなければ、休み休み生活してもらうことにしている。そのため、仕事や学校への復帰も退院後1週間以内に、自分のなかで自信がつけば可能であると考えている。 一般的な仕事や学業は退院後もほとんど制限はないが、お腹のなかの治癒過程を考えると、激しいスポーツなどは退院後2〜3週間後ぐらいからのほうが無難ではないかと考えている。 逆に「たくさん動いたほうがいいか」と言われると、それもあまり予後には関係ないと思う。ほどほどに、普通に生活してもらえたらと思う。

同じ術者、同じ術式でも、なぜ痛みに違いが出るのか

新都市病院の婦人科では私がすベて手術を執刀している。毎回ほとんど同じ術式や手順、器具や手術材料などで手術を行っている。そうすると術後の患者さんの回復具合や痛みも同じだろうと単純に考えてしまいがちだが、結構違いがあることが多い。 腹腔鏡下子宮全摘術(TLH)を行っても、翌朝、思ったより全然平気でしたと割と余裕のある患者さんと、痛みが強くぐったりと苦しそうな患者さんもいる。 医学的に見れば、術後疼痛の個人差は執刀医の手技だけで決まるものではなく、患者さん側の多様な要因が複雑に絡み合って生じることが分かっている。 第一に、生物学的な感受性の違いである。痛みの感じやすさ(痛覚閾値)や、オピオイド受容体・疼痛伝達に関わる遺伝子(OPRM1、COMTなど)の多型によって、鎮痛薬の効きやすさには生まれつき個人差が存在する。また、若年層やもともと慢性痛・線維筋痛症のような体質を持つ方では、痛みを強く感じやすい傾向がある。 第二に、心理社会的な要因が大きい。術前の強い不安や、痛みに耐えられないかもしれないという破局的思考(pain catastrophizing)

子宮筋腫の硬さや色と手術

子宮筋腫は一般的には硬く、あたかもコブのように発生することが多い。色調はやや黄みがかった白色であることが多い。これが典型的な子宮筋腫の肉眼的(目で見た)所見である。子宮筋腫は子宮に発生した腫瘍であるが、最終的には摘出した検体の病理組織学的検査での確認が必要である。 硬かったり、色が白かったりすると、多くの場合は良性(がん・悪性ではない)である可能性が高いが、最終的には病理組織診断による。子宮筋腫は、術前のMRIによってかなりの精度で良悪性の鑑別ができるため、術中の肉眼所見は確認(もちろん最終確定には病理組織診断が必要である)のような役割も果たす。ただし、もし子宮筋腫が軟らかったり白色でなかったりする場合でも、その多くは「変性」と呼ばれる変化なので、術前MRIで良性と診断されていれば心配のないことが多い。しかし、このようなケースでごく稀に悪性の可能性を否定できない境界病変(STUMP)との結果が返ってくることがあるため、注意深く経過を見るようにしている。 手術自体、特に子宮筋腫核出術においては、子宮筋腫が硬い、つまり変性していないほうが一般的には操

偽閉経療法(レルミナ、イセルティ、リュープロレリンなど)時の出血

子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症の手術前に偽閉経療法(レルミナ、イセルティ、リュープロレリンなど)を行うことは多い。これは卵巣からの女性ホルモンを低下させることによって、手術前に子宮筋腫を小さくして手術をしやすくしたり、生理や出血を止めて貧血を改善する目的に使うことが多い。 このようなくすりを患者さんに説明するときには、「生理や出血をとめるくすりです」と割とシンプルに言ってしまうことが多い。もちろんその説明に加えて、リュープロレリンの場合はフレアアップ後の出血があったり、粘膜下筋腫の場合は出血が続くことが頻繁にあることも説明しているつもりではある。しかし、患者さんにとって「生理が止まる」という言葉のインパクトが強いせいか、出血が始まってしまうと結構心配されてしまう場合もある。 申し訳ないが、それほど出血量が多くならず、採血でも貧血が進行していなければ様子を見ることが多い。ただし粘膜下筋腫、特に子宮内腔に突出している体積や面積の多い粘膜下筋腫は、出血量が多くなってしまうことがある。実際に偽閉経療法を行っているときに出血量が増加して緊急手術を行ったこ

腟を開放しない腹腔鏡手術と、術後腹腔内感染(organ/space SSI)のリスク

子宮筋腫や子宮腺筋症などの良性疾患で腹腔鏡手術を行う際、子宮を全摘するか(TLH、LAVH、vNOTESなど)、子宮頚部を残すか(LSH)、筋腫の結節のみを切除するか(LM)といった術式の違いが議論される。 術後の回復や妊よう性、将来的な頚部病変のリスクと並び、実は見過ごされがちだが重要な論点となるのが術後の腹腔内感染(organ/space SSI)のリスクである。 外科手術の創部分類において、無菌組織のみを扱う手術は清潔(Clean)とされるが、常在菌が存在する消化管や気道、生殖器(腟)を開放した時点で準清潔(Clean-contaminated)に区分が変わる。 子宮全摘術(TLH)や腟式アプローチ(LAVH、vNOTESなど)では、子宮を体外へ摘出するために腟円蓋部を切開して腟を開放する。この操作により、好気性菌や嫌気性菌が混在する腟内フローラに、無菌である腹腔内が直接曝露される。 一方、子宮頚部を残すLSHや、筋腫のみを核出するLMでは腟管を開放しないため、手術創は原則として清潔のカテゴリーに留まる。この解剖学的なアプローチの違いが、術

傍卵巣のう腫はやや小さいときに手術をすることもある

健診や日常の超音波検査で卵巣の近くに水がたまっていると指摘され、傍卵巣のう腫(ぼうらんそうのうしゅ)と診断されることがときどきある。 実際に傍卵巣のう腫は、卵巣のう腫と手術を行って手術をしてみるまで鑑別がつかないこともあるが、傍卵巣のう腫のリスクとして「やや捻転(ねじれる)しやすい」という点が卵巣のう腫と異なる。 一般的な卵巣のう腫であれば、手術を検討する目安は5〜6cm以上とされることが多い。しかし傍卵巣のう腫の場合、4cm程度であっても手術を検討してもよいのではないかと考えている。 本来の卵巣は、骨盤漏斗靭帯や固有卵巣靭帯といった太い血管を含む強固な支持組織によって骨盤壁や子宮に固定されている(それでも捻転することがある)。一方で、傍卵巣のう腫は薄い腹膜(卵管間膜)の間にポツンと生じるため、自身を支えるしっかりとした血管や靭帯が存在しない。いわば、薄い膜の中で“ぶらぶら”と宙吊りになっているような状態である。 そのため、傍卵巣のう腫が存在する付属器(卵巣卵管)はやや捻転しやすい。また捻転していなくても、周囲の組織が引っ張られやすいため痛みを感

子宮筋腫核出術を腹腔鏡手術で行う意味:次の手術を考えること

子宮筋腫核出術は多くの場合、腹腔鏡下(TLM)あるいは腹腔鏡補助下(LAM)で行う。しかし未だ一部の手術は開腹手術で行うことがある。 子宮筋腫核出術の術後において最大の課題は術後の再発である。 術後の再発を防ぐには一応、取り残しをできるだけ少なくしたほうが良いと言われる。しかし子宮筋腫をできるだけ核出しようとするあまり、術後癒着のリスクが高くなったり妊娠後の子宮破裂のリスクが高くなったりするデメリットも考えられる。そのため特に最近はある程度の小さな筋腫は手術のときに残すことも多い。 しかしどのような方法で手術をしても現在のところ確実に再発を防ぐ方法はなく、将来の再手術も考えて手術を行う必要がある。また子宮筋腫核出術後に妊娠した場合、ほとんどの場合、帝王切開による分娩となる。 だから子宮筋腫核出術後の癒着、あるいはその程度を軽くすることは大きな課題であると考えている。子宮筋腫核出術は子宮表面に縫合糸が多く残る。また小腸と接しているため腸管癒着が起こるリスクがある。そのため癒着、あるいはその重症化をできるだけ起こしにくいような子宮筋腫核出術の方法が望

お盆に考えたこと:25歳の青年の記録から

先日、両親の眠るお墓参りに行ってきた。 その墓地には、戦時中に建てられた、戦死された方が眠る一角がある。何年もその場所を通り過ぎていたのだが、ふと立ち止まって墓石の側面にある記録に目を向けた。そこには昭和14年、25歳という若さで亡くなった陸軍伍長についての具体的な記述があり、中国、満州での戦闘における最期が刻まれていた。 これまで戦時中のドキュメンタリーや映画、本には割と目にしてきたほうだと思う。しかし、この墓石に刻まれた生々しい記録ほど心を揺さぶられるものはなかった。言葉にできない圧倒的なリアリティをもって、それは確かにそこにあった。 25歳という若さにも、強い衝撃を受けた。その後、太平洋戦争を経てわずか6年後に大日本帝国は敗戦し、日本国となった。戦後は180度に近い価値観の変化がもたらされ、まるで戦前のすべてを否定するかのような風潮すらあったと聞く。しかし、戦争で亡くなった彼らは、ただその時代を懸命に生きただけなのに。 もし、25歳の彼が生きて終戦を迎えていたら、どんな人生を送っていたのだろう。結婚して子どもに恵まれ、高度経済成長期の豊かさ

子宮内膜症の手術後、すぐに痛みが消えないとき

ディナゲスト(ジエノゲスト)などの黄体ホルモン剤が、長期的に子宮内膜症の痛みのコントロールに用いることができるようになってから、痛みに対する子宮内膜症の切除術は20年前よりは減少傾向にあると思う。 しかし今でも、ディナゲスト(ジエノゲスト)内服中に痛みは続くことがあり、その場合は手術の適応になることがある。術式としては、腹腔鏡下にチョコレート嚢胞を核出あるいは凝固したり、骨盤内の子宮内膜症病変を摘出することである。 しかし手術で肉眼的に確認できる子宮内膜症病変は摘出することができても、その直後(術後1~3か月)は慢性骨盤痛などはあまり変わらないことが多い。そんなときは患者さんも私もがっかりしてしまうのだが、基本的にはホルモン治療(ディナゲストなど)を行いながら経過を見ることが多い。不安ではある時期だが、3~6か月経過すると徐々に痛みが減ってくることが多い。 これは手術の炎症が落ち着くまで時間がかかったり、長年の痛みの記憶(神経の感作)のリセットに時間がかかるためと推測されている。たしかにこういった時間軸は、患者さんの痛みが軽減する時間軸と一致する

子宮筋腫核出術後の仕事復帰

子宮筋腫核出術(TLM、LAM)は最近では人口構成の変化によって減少傾向にある手術であると思われる。しかし子宮筋腫核出術は未だに子宮全摘術と並んで頻度の高い手術ではある。しかも生殖年齢(20代から40歳代前半)の患者さんの割合が多く、術後の仕事復帰について気にされることも多い。  子宮筋腫核出術は子宮全摘術とちがって腟を切開して開くことはない。そのため腟の縫合もしていない(一部に摘出した子宮筋腫を腟を開いて回収する医師はいる)。そのため術後の骨盤底の力がかかったり、力んだり、運動をしたりしてもあまり影響がないはずである。だから術後に下半身に負担のない生活をと患者さんに指導することも少ない。ほとんど何の制限もしていないことが多い。わりと普通に暮らしてもらって大丈夫である。  ただし傷口の痛みやお腹の中の鈍痛は、帰宅後7-10日後ぐらいまでは残っていることが多い。その痛みが悪化しすぎない程度に生活をしてもらえると安心であると思う。  社会復帰の早さで、子宮全摘術ではなくて子宮筋腫核出術を選択することは少ない。しかし子宮筋腫核出術は腟を開くことはないの

10年かかって難題が解けることもある:子宮筋腫核出術での工夫

腹腔鏡下子宮筋腫核出術(TLM)を行う際、モルセーフ®という摘出した子宮筋腫を入れる専用の袋がある。モルセーフ®を患者さんのお腹でひろげて、その中で専用の器具(モルセレーター)を用いて子宮筋腫を細切して体外に取り出す。  モルセーフ®は、現在の腹腔鏡下子宮筋腫核出術(TLM)はほぼ必須と思われる器具である。導入されたのは確か2016年頃であったが、正直なところ取り扱いが難しかった。自分の行う腹腔鏡下子宮筋腫核出術(TLM)とのトロッカー配置との相性や、患者さんの腹壁の厚さなどによって、一定の扱いやすさが得られないことがあった。  発売元にさまざまな方法を尋ねたり、過去の論文や手術動画をみたりして実際に自分で試したりもしたが、どれも確実な再現性があるとは言い難かった。毎回、最終的には患者さんの安全と手術の完遂は保たれていたが、モルセーフ®のセッティングによる手術時間の延長が課題であった。  特にお臍の5mmの傷からモルセーフ®のテールエンド(しっぽ)の部分を出し、そこに5mmのトロッカーを挿入する工程にいつも難航していた。たまたまうまくいっても、次

子宮筋腫における予防的な手術はあるのか?

子宮筋腫の日常診療において、ガイドラインや教科書を開くと必ず目にするのが症状がなければ経過観察、あるいは閉経後は経過観察という原則である。しかし、ときに症状がなくても手術をしておいたほうがよいと思われる場合もある。 典型的な例が、10cmを超えるような大型の有茎性漿膜下筋腫である。 子宮の外側に突出し、細い茎(くびれ)で子宮本体とつながっているこのタイプの筋腫は、現時点で頻尿や圧迫感などの明確な自覚症状がない場合、閉経すれば自然と小さくなることを期待されるケース、特に閉経後の場合は経過観察となることもしばしばある。 しかし、ここには長い患者さんの人生の間にはときとして2つのリスクがあると思われる。 その1つは、茎捻転のリスクである。細い茎でぶら下がっている大型筋腫は、ふとした拍子にくるりと捻れて血流が途絶え、劇烈な下腹部痛を伴う急性腹症を引き起こす。この場合、緊急手術が必要になる。 2つ目に、さらに臨床的に厄介なのが寄生筋腫化(parasitic leiomyoma)や異常血管新生の問題である。筋腫が長年にわたって周囲の組織(大網や腸間膜、後腹膜

良性疾患の子宮全摘術前の子宮がん(頚部体部)検査は必要か?

子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症などで子宮全摘術を計画する際、日本ではほぼ全例で、手術前のどこかのタイミングで子宮頚がん・子宮体がんの検査(細胞診など)を行う。日本では不正出血や肥満・糖尿病といった子宮体がんのリスク、あるいは頚部異形成などの子宮頚がんのリスクが特に高くなくても、一種のスクリーニングとしてルーチンで行われるのが一般的である。  しかし、欧米のガイドラインやレビューの記載には、必ずしも症状や既往の有無にかかわらず、全員にルーチンで事前のがんスクリーニングを行う必要はない、あるいは推奨しないという記載が目立つ。この背景には、欧米の医療における検査のコストや患者さん負担と、それによって得られる医療的利益(対費用効果)に対する厳しい評価基準がある。  実際、不正出血などの症状がなく、肥満や糖尿病などのリスクファクターもない比較的若い患者さんの場合、体がんの検査を行っても異常が見つかる可能性は極めて低い。痛みを伴う子宮体がん検査を省略することは、理屈のうえでは十分に可能ではないかとも考えられる。しかし実際にはほとんどの場合、子宮体がんの検査

子宮筋腫核出術後の発熱について

子宮筋腫核出術は術後に発熱が続いてしまうことがある。特に大きな筋腫を核出したとき、正常の筋層を大きく縫合したとき、また多数の子宮筋腫を核出したときに発熱が続くこともある。術後3日目ぐらいまでは38度台の発熱があることもしばしばみられる。それに対して子宮全摘術は手術翌日は発熱することが多いけど、術後2日目には割と速やかに解熱していくことが多い。 しかしこれはあまり心配ないことが多い。特に患者さんが割と元気で、腹部の傷は痛いけど、そんなに子宮自体が痛くないといったときは大丈夫なことが多い。この発熱の原因は吸収熱といって、手術自体の子宮への刺激や、子宮筋層や周囲の組織の修復過程で発生している。そのため時間はかかるけど、ゆっくりと一日ごとに解熱していく。 もちろん、術後3-4日を経過しても38度以上の発熱が朝から続いていたり、また子宮を中心とした痛みが強くなってきたときは術後感染、あるいはその他の合併症が発生している可能性があるので注意する必要がある。こんなときは患者さんも元気がなくなっていることが多い。 子宮筋腫核出術後の数日の発熱は様子をみていくうち

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