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​腹腔鏡下子宮内膜症手術

ひとりひとりの状態に応じた治療を行います

 子宮内膜症は20から40代の女性の約10%以上に発生します。主な症状は痛みと不妊です。痛みに関しては全く症状のない患者さんから、仕事や家事に大きな障害をもたらしてしまうほどまで症状が悪化する場合があります。生理痛(月経困難症)がひどい場合、数時間おきに痛み止めを飲む必要があったり、またそれが数日続くときがあります。仕事や家事がはかどらなくなったり、あるいは休まざるをえなくなったりすることがあります。これは患者さんにとってとても苦痛をともなうことであり、また患者さんをとりまく社会にとっても大きな損失です。痛みは生理痛だけではなく、慢性骨盤痛という常に下腹部に痛みが続いてしまう状態をおこしてしまうことがあります。また痛みの種類もさまざまで、排便痛、特にお尻のほうに突き抜けるような痛み、また性交時痛などがよくみられます。また不妊の患者さんのお腹には約50%に子宮内膜症を認められるるとの報告があります。
 子宮内膜症の治療には大きく分けて、ホルモン(薬物)療法と手術があります。また痛み止めなども併用して治療を行います。治療方針は、患者さんの痛みの程度、子宮内膜症の病巣のひろがり、年齢、そのときに妊娠を希望しているのか、また既に家族計画は終えられたのかなどによって慎重に考えることが大切です。また不妊症の患者さんには、年齢や子宮内膜症のひろがりの状態によって、ときに最初から体外受精などの高度生殖医療(ART)をおすすめする場合があります。またこれらの治療を組み合わせて効果的に治療することも大切です。
 また卵巣子宮内膜症(チョコレートのう腫)の悪性化(卵巣がんになること)は40代以降とくに注意する必要があります。特に大きなチョコレートのう腫であるほど、また年齢がかさむほど悪性化の発生率は高くなります。悪性化を予防したり、また予知することは現在のところほとんど不可能です。しかも悪性化は突然おこっていることがほとんどで、検診をしていても悪性化を防げないのが現状です。患者さんの年齢やチョコレートのう腫の大きさによっては卵巣をまるごと取り除く(付属器切除術)も考慮する必要があります。

手術には子宮内膜症への理解と豊富な経験が必要です

 子宮内膜症の手術には子宮内膜症への理解と手術の豊富な経験が必要です。子宮内膜症の発生は部位によって発生原因が異なるといった仮説があります。実際手術を行っていても一つの理論で子宮内膜症の発生を説明するのは難しいと感じます。そのため手術の方法、考え方も発生部位によって変える必要があります。
 子宮内膜症の手術は卵巣とそれ以外の場所で大きく分けています。
 現在から将来にわたり妊娠を希望している患者さんの卵巣子宮内膜症(チョコレートのう腫)の手術は、核出(かくしゅつ:のう腫を取り除くこと)が基本です。チョコレートのう腫手術の最大のポイントは卵巣機能の温存(卵子、女性ホルモンの産生を残すこと)です。一方、チョコレートのう腫手術後の再発率は比較的高いため(10~40%)、再発率をいかに減らすかも重要です。しかしこの2つは相反する手技であることもあり、バランスを保つことが大切です。ときに凝固(焼くこと)を用いたり、あるいは核出と凝固を組み合わせたりする場合もあります。患者さんの状態を理解し、手術前にどのような方法を用いれば良いのか検討し、また手術中の状況によって方法を変更し、柔軟に対応しています。
 また卵巣以外の子宮内膜症である深在性子宮内膜症や腹膜病変はできるだけ切除(取り除く)しています。凝固(焼くこと)だけでは病気に改善には不十分であり、切除が必要です。深在性子宮内膜症は直腸と子宮の間にできる子宮内膜症で、ときに激しい痛みの原因となります。またホルモン療法が効かないこともあり、最終的に手術が必要になる場合がよくあります。しかし深在性子宮内膜症の手術は難易度が高く、高度な技術が必要です。なぜなら深在性子宮内膜症は血管や神経、尿管や腸管にゆ着していることが多く、それらの一部を巻き込んでいることもあります。血管や神経、尿管や腸管などの重要な臓器を把握し守る方法を用いて、深在性子宮内膜症の切除をしています。特に骨盤神経を温存し、子宮内膜症病変を安全に取り除く方法を完成しています。子宮内膜症のゆ着、病巣の広がりにはある一定のパターンはあるものの、深く浸潤していることもあり、その把握には豊富な経験が必要です。以前から特に深在性子宮内膜症の効果的な切除方法に関心をもち、研鑽をつんでいます。十分に深在性子宮内膜症を切除できた場合は、患者さんの予後は良く、痛みの減少に大きく貢献しています。

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