触診の大切さ:お腹の微妙な張り
- Yuki Miyabe
- 7月26日
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腹腔鏡下子宮全摘の術前後に腟洗浄を積極的に行うようになってから術後の骨盤内感染の発生率は随分少なくなった。
骨盤内感染が発生した場合も比較的軽症であることが多い。骨盤内感染の症状は発熱と下腹部痛である。また採血で炎症所見が必ず認められる。しかし軽症であるゆえに下腹部痛がほとんどないこともある。つまり患者さんの症状は発熱だけで、あとは採血で炎症所見が認めるだけの場合がある。このとき、診断に悩むことが多い。婦人科の内診で腟断端に痛みがあったり、お腹を押すと痛みがあったり(圧痛)すればほぼ確実に骨盤内感染と判断できる。ところがこのように診察をして患者さんのお腹に触れてもあまり所見がないこともある。すると例えば尿路感染症や呼吸器疾患、風邪なども考える必要がでてくるが、このような病気も患者さんの訴えや検査、診察で否定できる事が多い。するとさらに診断に難渋することになる。
そしてこんなときは細菌感染に効果のある比較的広域の抗生物質を開始する。そして効果があるとその翌日には解熱傾向になり、炎症反応も改善する。このときに再度お腹を触れると抗生物質を始める前よりもお腹の張りが減っていることにやっと気づくことがある。つまり抗生物質の投与前はお腹が張っていたことがわかる。そこが炎症の主座であったことがわかる。炎症の腹部所見として圧痛や反跳痛は有名である。しかし私だけかもしれないが、これまでお腹の張りが意識されてきたことは少なかった印象がある。そのため触診のときもお腹をつい強く押してしまいがちである。そうするとお腹の微妙な張りは認識できない。私もこの微妙な張りを意識するようになったのは恥ずかしながらこの数年である。最近ではお腹はできるだけ力を抜いて皮膚を感じるような意識で触れるようにしている。