手術の朝の風邪、なぜ中止になるのか
予定手術の朝、発熱がある、あるいは激しい咳が止まらない。そんなとき、婦人科良性疾患の手術は延期になってしまうことが多い。ましてや新型コロナウイルスやインフルエンザが陽性であれば議論の余地もないが、いわゆる普通の風邪であっても予定手術は原則として中止の判断をすることになる。
これは風邪で誰かにうつすとかいった問題というよりも、医学的な根拠に基づいた患者さんの安全を保つため方針である。
全身麻酔下の手術では、気管内挿管や人工呼吸管理が行われる。急性上気道炎に罹患している状態では、気道粘膜が炎症を起こし、極めて過敏になっている。この状態で気道に管を通すと、喉頭痙攣や気管支痙攣といった重篤な呼吸器合併症を引き起こすリスクが上がる。複数の麻酔科学的データ、主に小児科領域ではあるが、活動性の上気道感染を伴う全身麻酔は、無症状の症例と比較して術中・術後の低酸素血症や肺炎の発生率を有意に上昇させることが明確に示されている。特に咳や痰、発熱を伴う場合、気道過敏性は感染症状が消失した後も数週間にわたって残存する。
婦人科の良性手術:子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣腫瘍などに対する手術は、数日から数週間の延期が直接的に生命を影響を及ぼすことは少ない。待機可能な手術において、呼吸停止や重症肺炎のリスクをあえて冒す正当性はほとんどないのが現状である。命に関わらない良性疾患だからこそ、安全管理はより厳重にといった逆説的な理由にもなる。
私の担当する患者さんでは、年に一人ぐらい、手術当日の風邪が原因で手術が中止になることがある。仕事や家庭で忙しく、いろいろな都合や段取りをつけてやっと入院する患者さんが多い。風邪が原因で手術が中止になったときの残念さや脱力感は心中察するに余りある。
また手術前にレルミナやイセルティ、リュープロレリンなどの偽閉経療法を行ってきた患者さんも多い。
手術前の外来での手術説明の最後に、いつも風邪を引かないようにねってお伝えしている。なんとなく普通の挨拶のような感じもしてしまうかもしれないけど、かなり心から注意してもらえたらいいなって思っている。


